ミントの人物伝その７３〔第664歩〕 - ミントの山歩き日記２

端正な風貌からゴルフの貴公子と呼ばれました。

ミントの人物伝（その７３）

セベ・バレステロス（1957-2011）
プロゴルファー。

スペインの酪農家の家庭に、男ばかり4人兄弟の末っ子として生まれる。
決して裕福ではなかったが、キャディのアルバイトをしていた兄の影響で
ゴルフに触れるようになる。

7歳のときに兄から3番アイアンのヘッドをもらう。
セベはこれに枝を取り付けクラブにして、小石を打つなどして遊びながら
ゴルファーとしての基礎を身に付けた。

8歳になって、本物の3番アイアンとボールを手に入れてからは
ボールが擦り切れて、中のゴムが露出するまで打ち続けた。

最初に振ったクラブが3番というのが面白い。
元来3番などのロングアイアンは打ちづらいクラブである。
この難しいクラブに早くからなじんだことが
セベをアイアンの名手に成長させてゆくのである。

12歳の頃にはスクラッチプレーヤーの腕前に達していた。

1974年、16歳でプロとなる。
キャディーをしながらゴルフを続けるセベだったが
ある日、美しい少女とめぐり会う。
だが彼女は銀行家の娘で、貧しいセベの家とはつりあいが取れない。
結婚などまず無理、本来ならあきらめるしかなかった。が・・

ー僕はゴルファーで一番になって、彼女と結婚するんだ！ー

執念とは恐ろしい。

2年後の1976年には欧州ツアー初優勝、
この年、19歳の若さで欧州ツアーの賞金王に輝いた。
そして彼女と念願の結婚をするのである。

セベはトップ選手に似合わずドライバーはよく曲がった。
だがアイアンショットの切れ味は鋭く、多種多様なショットを放つことができた。
林の中からなど、グリーンを簡単には狙えないような所からでも
バーディーを奪ったりすることから、「七色のアイアンショット」と呼ばれた。
またアプローチやバンカーショットなどのショートゲームも巧みで、
特にパッティングはゴルフ史上に残る名手の一人とされた。

1979年の全英オープンのことである。
優勝争いをしていた最終日の16番、
セベはティーショットを大きく右に曲げて、臨時駐車場の車の下に
ボールを打ち込んでしまった。
ルール上の救済により車を移動し、打球可能な状態にはなったが
そこはグリーンも見えない場所だ。
そしてボールは打ちにくいむき出しの土の上。
優勝を争う立場としてはきわめて苦しい状況となった・・

「どうする、セベ。刻（きざ）むのか？」キャディーは聞いた。
だがセベは思った。
ー刻むなんてとんでもない。
ギャラリーは僕がどうやって打つんだろうと期待しているんだ。
みんなが凄い、と思うようなプレーをするのがプロじゃないかー

セベは土の上のボールをきれいに打ち抜く。
舞い上がったボールは見事グリーンオンし、カップから4ｍの所に止まる。

大きな歓声があがった。

結局彼はこのホールでバーディーを奪い、自身初めての
メジャータイトルを手繰り寄せたのだった。

このプレーは現在に至るまで、全英オープンの語り草となっている。

なおマスターズの初優勝は翌1980年だったが、
これは当時の最年少優勝記録を更新する勝利だった。
メジャー大会では結局通算5勝している。

30歳過ぎまでは、天才の名を欲しいままにし、
圧倒的な存在感でライバルたちを恐れさせたプレーヤーだった。

1991年に6回目の欧州ツアー賞金王を獲得以降、次第にスランプへ陥る。
その後メタルウッドやチタンウッドが登場した頃から調子を崩し
世界ランキングは急降下。
腰痛や膝痛にも悩まされて全盛期の輝きを取り戻すことなく
2007年に競技ゴルフから退く事を表明した。

2008年10月6日、スペインのマドリード空港で倒れる。
脳腫瘍だった。
手術を繰り返すも結局は完治することなく
2011年5月7日
長い闘病生活の末に、ペドレニャの自宅で亡くなる。
享年54歳。早すぎる死だった。

リー・トレビノの言葉だ。
「ニクララスにはパット。俺には飛距離。ゴルフの神様は
誰にも必ずひとつ欠点を与えるもんだ。ただセベは例外だが」

セベのグリーンをさっそうと歩く姿が目に浮かびます。
ご冥福をお祈りいたします。

（参考文献）
Wikipedia 他
画像はWikipedia、Web から借用いたしました。