ミントの人物伝その79−2〔第736歩〕

「だめか…。いやそんなはずはない。きっと聞こえる」
青年は待ち続けました。


ミントの人物伝(その79−2)


1899年秋、マルコーニは初めてアメリカに渡航する。
すでに彼はイギリスで『無線電信信号会社』(のちのマルコーニ社)を設立しており
研究もいよいよ充実期をむかえていた。

ニューヨークでは、国際ヨットレースであるアメリカズカップのレポートを
無線で伝えるというデモンストレーションを行なった。

アメリカでの評判に手ごたえを感じたマルコーニは
いよいよ大西洋横断無線通信の実験にとりかかることにした。

1901年、アイルランドロスレアに無線局を作り、
コーンウォールポルドゥー
アイルランドクリフデンの無線局を中継する実験を開始したあと
再びアメリカに渡った。

1901年12月、マルコーニはカナダ、ニューファンドランド
セントジョンズという港町にいた。
大西洋を隔てて3200kmはなれたイギリスと北アメリカを、
電波で結ぶ試みに挑戦するためである。

すでに送信機は完成していた。
イギリスのポルドゥーにある送信機は、強力な火花を発生させるため
高さ45mの支柱に扇形に導線を配した巨大なものだった。

セントジョンズに現れたマルコーニはさっそく受信機の組み立てにかかった。
それと係留用の気球と大型の凧(たこ)を用意した。
天候の厳しいニューファンドランドでは
受信のための巨大な支柱を立てることは不可能だったからだ。


左側で見ているのがマルコーニ


最初の気球は強風にあおられ、海上に飛んでいってしまった。
マルコーニは凧を使用することを指示した。

大型の凧は気球につられて上昇し、120mの高さまであがる。
凧からは導線がアンテナがわりにつり下げられていた。
強風のため、つるされた導線は右に左に激しく揺れている。


12日正午。マルコーニは受信機のイアホンを耳に当てていた。
受信した信号を紙に記録する装置をすでに開発していたが、
電波が微弱である可能性を考慮し、自らの耳で確かめる方法をとったのだ。

送信側ポルドゥーへは、モールス信号の「S」にあたる信号を、
セントジョンズの時間で午前11時半から送り続けるよう
あらかじめ指示してある。

「だめか…。いやそんなはずはない。
きっと聞こえる」

そのとき・・
1901年12月12日12時30分。

「ト」

かすかに音が聞こえた。

「ト・ト・ト」
3度続いている。信号だ!
「S」に対応する音がくり返し聞こえる。

「ト・ト・ト(S、S、S)…」
歓声があがった。

翌日、このニュースは全世界に伝えられた。
「マルコーニ、大西洋横断通信に成功!」

ヘルツの実験から13年。無線通信時代の扉を開いたのは、
夢を追い続けた27歳の青年実業家だった。


じつはこの結果、世の科学者たちに
必ずしも肯定的に受け止められたわけではなかった。
それは「電波は直進するものだから、地表曲面にさえぎられ
カナダに届くはずがない」
というものだった。
あまつさえ、マルコーニの実験はイカサマだ、といった声も。


ー地球の上空には電離層が幾層にもあり、それが電波を反射し、
反射された電波が再び地上で反射され、それを繰り返すので
電波は遠方まで届くのだー

この事実は、この当時知られていなかったのである。

だが以後の実証結果により否定の声もしだいに小さくなってゆく。


1902年12月には、アメリカ側からの無線通信に成功。
送信地はカナダのノバスコシア州グレースベイ
受信地はポルドゥーである。
ついにこれで「無線通信の実用化」が可能であることが証明された。

1903年1月18日、マサチューセッツ州ケープコッドの無線局にて
セオドア・ルーズベルト大統領からイギリス国王エドワード7世への
メッセージを送信。
これが初の大西洋横断のメッセージとなった。

しかしこの時期、安定した通信はまだ難しかったのだ。
マルコーニは高出力の無線局を大西洋の両岸に建設し始めた。
海上を航行する船舶との通信を可能にするためである。

1904年、マルコーニは夜間に船舶に向けてニュースを送信するという
有料サービスを開始した。

またこの年、ベアトリス・オブライエンと結婚している。

1907年10月、大西洋を横断する無線電信サービスが確立する。
これはアイルランドのクリフデンと、カナダのグレースベイの無線局が
それぞれ「一般人のための電報業務」を取り扱うものである。
そして翌年2月には継続的な業務運用が認められた。
グレースベイの無線局では、四つのタワーに
それぞれイタリア、アメリカ、イギリス、カナダの国旗を掲げて祝ったという。


1909年、マルコーニはついにノーベル物理学賞を受賞する。
イタリア人でこの受賞は初めてで、マルコーニの喜びは頂点にあった。


(続く)


[平成28年の記録]
 http://d.hatena.ne.jp/mint0606/20161231


[平成27年の記録]
 http://d.hatena.ne.jp/mint0606/20151231


[平成26年の記録]
 http://d.hatena.ne.jp/mint0606/20141231


[平成25年の記録]
 http://d.hatena.ne.jp/mint0606/20131231


[平成24年の記録]
 http://d.hatena.ne.jp/mint0606/20121230


[平成23年の記録]
 http://d.hatena.ne.jp/mint0606/20111231


[平成22年の記録]
 http://d.hatena.ne.jp/mint0606/20111230


[人物伝]
 http://d.hatena.ne.jp/mint0606/20140930


[YAMAPの記録]
https://yamap.co.jp/mypage/199626



コメントは、ブログ運営者(ミント)が確認後に公開されますので
よろしくお願いします。