ジョンはついに完成させます。
それは正確で、とても美しい時計でした。
*ミントの人物伝87 ③
1760年に画期的なH-4が完成した。
直径がわずか13センチほどの携帯用の丸い銀時計である。
これには、ぜんまいを巻く間でも動き続ける持続装置と、
バイメタル構造のテンプの搭載により、気温が変化しても
精度が狂わないという特徴があった。
そしてデザインがシンプルで美しかった!
海洋時計(マリンクロノメーター)の誕生である。
<H-4>直径13cm 重さ1.4kg
1761年に、H-4はイギリスのポーツマスからジャマイカ島への航海実験に
供される。
その結果、61日間に45秒の遅れが出たのみで、その正確さが立証された
ので、イギリス政府はついに2万ポンドの懸賞金を支払う旨を公表した。
しかし・・である。
ハレーのあとの天文台所長ネヴィル・マスケリンをはじめとする
天文学者らは、天文学的方法による経度測定法が「正しい測定法」だと
主張して、ハリソンを中傷する報告書を提出した。
また議会でも、ハリソンが庶民出身であることに嫌悪を表す者もいて、
公正に評価されなかった。
結局H-4は当初の条件になかった追加試験を要求された。
1762年には往路5秒、復路1分49秒の誤差、と良好な結果を出すが、
経度評議委員会はまだ賞金全額の支払いをためらう。
ようやく5000ポンドの支払いをしたのみだった。
1764年に、H4の複雑な内部機構をそのまま継承しつつ
外見を簡素化したH-5を完成させる。
これは西インド諸島バルバドスへの5ヶ月間の航海で、
誤差15秒と優秀な成績を収めたが
1769年に5000ポンドと、やはり全額は支払われなかった。
<H5>
ーこれ以上どう証明しろというんだー
ジョンは悩んだ。
ジョンに批判的なマスケリンが経度評議員会で発言力をもつ以上
残りの賞金はいつまでももらえないだろう。
それはまた、
「自分の時計が海洋時計としての価値を認められていない」
ことを意味した。
ジョンは賞金よりも名誉が欲しかったのである。
自分も高齢だ。残りの時間はあまりない。
ジョンは一大決心をし賭けに出た。
時の国王ジョージ3世に手紙を書いたのだ。
賭けの結果は吉と出た。
手紙を読み、ことの次第を知った国王は
「懸賞金は経度の正確な測定法を開発した者にさずけられるものだ。
開発者の身分に対してさずけられるものではない」と激怒し、
H-5を再度、国王臨席の実験に付すように命じた。
1773年に行われた実験で、ジョンの時計の誤差は
1日あたり1/14秒に過ぎないことが立証された。
議会も実験に瑕疵(かし)がないと判断したため、経度評議員会も
ついにこれを認め、懸賞金の残り全額が授与されることになった。
ーようやく永年の努力がむくわれたー
その時、1773年6月21日。
海洋時計を作ろうと決心して59年目、
H-1を作成してから38年目のことである。
ジョンは80歳になっていた。
その後、ジョンは83歳で亡くなるが
その亡くなる8か月前にジェームズ・クックが第二次探検航海から
戻ってきた。
熱帯から南氷洋に及ぶ3年の航海では
ラーカム・ケンダルの作ったH-4の複製が大いに役立った。
クックはH-4を「完璧な案内人」と表現したらしい。
ジョンはそれを聞いてとても喜んだという。
海洋時計の発明により、船旅は安全なものに変わってゆく。
ジョンの果たした功績は大きい。
彼の製作した時計は現在も、博物館に変わったグリニッジ天文台にて
展示されている。
(了)
書いていてジョンの生涯は、機関車の父、ジョージ・スチーブンソンと
共通点が多いことに気づきました。
ジョン・ハリソンは生まれた日と同じ3月24日に亡くなりました。
時計職人の彼らしい生涯でした。
(参考文献)
「海時計職人ジョン・ハリソン」L・ボーデン著
Web他
写真や画像はWikipedia、セイコーミュージアムHP、Web から
借用いたしました。
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