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如水は尋ねた。
「それがしは判断を誤ることがよくある。
貴殿はいつも的確だ。どのように判断しているのか?」
隆景は答えた。
「貴殿はあまりに頭がよく、物事を即断即決してしまうから、
後悔することも多いのでしょう。
わたしは貴殿ほどの切れ者ではない。十分に時間をかけたうえで
判断するので、後悔することが少ないのです」
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*小早川隆景③
1583年(天正11年)、秀吉は賤ヶ岳の戦いで柴田勝家を破る。
隆景は思った。
ーもはや秀吉は時流に乗ったというべきだろう。
勢いのある者とは手を結ばねばなるまいー
毛利氏は秀吉に従属することにした。
この時、隆景は養子の秀包を人質として秀吉に差し出している。
秀吉は喜んだ。
やはり秀吉は中国大返しの際、毛利氏が和睦の約束を守ったことを
感謝し、隆景をとても高く評価していたのだ。
その後の隆景は秀吉に積極的に協力している。
1585年(天正13年)の四国攻めで、伊予の金子氏を討ち取る
功績を挙げたときのこと。
秀吉は隆景に伊予一国を与え、独立大名として扱おうとした。
もともと譜代の家来がいない秀吉は、諸大名の有能な家臣を
自分の子飼いの大名にしようとした面がある。
上杉家の直江兼続などにも同様の誘いがあったようだ。
だがこのとき隆景は、一度毛利家に与えられた伊予を
改めて受領する形で、毛利家の一武将としての体裁をたもった。
なお隆景の伊予支配は良好で、騒動も叛乱もなかったとされる。
隆景はこれも辞退しようとしたが、結局は認められず、
37万石を領して在国することになった。
秀吉も天下人に登りつめたが
隆景はその秀吉の傘下大名になったのである。
なおこの年、兄の元春が亡くなっている。
かれは豊臣の世になっても、最後まで秀吉に頭を下げない
硬骨漢だった。
1588年(天正16年)7月、隆景は秀吉から
羽柴の名字と豊臣の本姓を下賜された。
1592年(文禄元年) からの文禄の役では、6番隊の主将として
1万人を動員して出陣。
碧蹄館の戦いでは、明軍本隊を立花宗茂とともに撃退している。
1593年(文禄3年)豊臣秀頼が生まれる。
秀吉は、毛利輝元に嫡男がいなかったことから、
木下秀俊を毛利家の養子にしようと考え、黒田如水を通じて
隆景に相談した。
なお秀俊は秀吉の甥であり、
秀頼が生まれるまでは秀吉の養子だった人物だ。
周りに甘やかされて育ち、若くして酒毒におかされていた
という。
ー血縁のない者が毛利家を継ぐことは心配だ。
このままでは、毛利はますます豊臣政権に
組み込まれてしまうのではないかー
秀吉には、すでに毛利秀元を輝元の養子にすることが
内定している、と告げて養子の計画を放棄させた。
そして隆景自身も実子がいなかったので、
自ら秀吉に請い、秀俊を養子としたのである。
先に書いた通り、隆景にはすでに養子の秀包がいた。
彼は秀俊よりもはるかに優れた資質を持っていたが、
やむをえず廃嫡し、別家を立てさせたのだった。
このことは隆景が自分を捨てて、秀吉から毛利家を守ったのだ、
という評価がなされている。
なお秀俊はこのあと隆景の養子となり小早川秀秋となる。
かれは関ヶ原の戦いで、当初西軍に属しながらも、東軍への
寝返りをしたことで有名である。
1595年(文永4年)には、五大老の一人に任じられる。
五大老と呼ばれたがじつは当初、6人の有力大名だった。
・徳川家康 256万石
・前田利家 83万石
・毛利輝元 112万石
・上杉景勝 120万石
・宇喜多秀家 57万石
・小早川隆景 37万石
注目すべきはその石高。
石高が少ないにもかかわらず、隆景は大老に選ばれている。
秀吉には、西日本のことは隆景に任せれば安泰、と言われるほど
信頼されていたのだ。
だがまもなく、隆景は秀秋に家督を譲って三原に隠居する。
隆景は自分が毛利本家の輝元と同列に扱われることに
遠慮があったかもしれない。
晩年の隆景は、筑前の名島城を改修して居城とした。
1597年(慶長2年)6月12日死去。
享年65歳。
問田大方らに看取られながらのやすらかな最後だった。
黒田如水は、
「これで日本に賢人はいなくなった」と嘆じたという。
1598年(慶長3年)、秀吉が死去。
西軍に属したため敗軍となり、領土が大幅に削減されてしまう。
隆景が生きていれば、どう考えどう行動しただろうか?
豊臣とはぎりぎりのところで距離をとろうとした人物だ。
冷静に時局を見きわめ、東軍に加わることを毛利本家に
進言したのではないか。
そう思えてならない。
(了)
(参考文献)
Web他
写真や画像はWikipedia、Web から借用いたしました。
[人物伝]
[YAMAPの記録]
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